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オオミズアオには口が無かった。

左の写真がオオミズアオ。口のところに管（くだ）が無い。
中央はンミアゲハの口。ミツを吸う管が丸く収まっている。
右はキアゲハが花のミツを吸っているところ。管が伸びているのが分かる。
自然は、オミズアオに食餌を与えず
交尾をして産卵する本能だけを授けたのだった。

役目を終えたオオミズアオにとって
死ぬまでに残された燃えない時間は意味が無いのだ。
だから産卵を済ませると
食餌を求めないで一生を終える。

人間は、子孫を残す役目が無くなっても
おいしいものをどんどん食べていつまでも生きようとする。
食事がのどを通らなくなっても
まだ生きてるほうが良いと思っている。

先生は オオミズアオは退化して
人間は進化していると言った。

進化って何だろう。

海棠（かいどう）の想いで

僕のおばあちゃんは何時も部屋でお箏（こと）を弾いていた。
お箏を弾きながら 亡くなった。

「おばあちゃんは、芸術に燃えながら息を引き取ったのよ」
　と 母が言う。

おばあちゃんが少女の頃に使っていたという楽譜を見た。
僕にも分かる歌詞がたくさんある。

梅ちる ゆふべ の山里に
ひとこえ響くは 誰が笛ぞ・・・

「海棠」という曲があった。これは難しくて分からない。

盛りいみじき海棠に
灑（そそぐ）も重し春の雨

花の恨みか喜びか
問はんとすれど 露もだし

聞かんとすれど
花いはず・・・

「おばあちゃんが植えた海棠（かいどう）の花が開きはじめたよ」
と　母が雨上がりの庭を指差して教えてくれた。
海棠のことを辞書で調べて 僕の胸がすこし熱くなった。

「海棠 睡（ねむ）り未だ足らず」
美人の、未だ酔いのさめない、なまめかしさのたとえ。
「海棠の 雨に濡れたる風情」
美人が、憂（うれ）いをふくんでうちしおれているさま。

美人とは、中国、唐の皇帝 玄宗の寵妃（ちょうき）であった
楊貴妃（ようきひ）のこと。
玄宗の寵愛（ちょうあい）をもっぱらにし、国政が乱れ
やがては戦いを招き
逃れる途中に殺された。

楊貴妃の愛は燃え尽きて、 海棠の花となったのだ。

庭の海棠の花の蕾（つぼみ）が
１３００年前の歴史をよみがえらせてくれた。

僕はモンシロチョウを指の上にのせてミツを吸わせながら・・・

花の恨みか喜びか・・・
意味が分からないで海棠の曲を唄って弾いている

おばあちゃんの
少女時代の可愛い姿を　

想い浮かべた。

（講談社の日本語大辞典を参照したよ）

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